月に跳ねる

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 後日、遊びに来てくれた子供達に相談した。  どうすれば僕も皆と同じようになれるだろうか、と。  子供の1人が言った。  良いことをたくさんすれば、きっと願いは叶う。  母親にそう教わったらしい。  学校を卒業した頭の良い大人が言うことであれば、きっとそうなのだろう。僕はその言葉を信じて、良いことをたくさんすることにした。  じゃあ、良いことって何なのだろう。  子供の1人が答えた。  たぶん、皆が喜んでくれることだ、と。  皆の役に立って、皆が喜んでくれることが、良いことなんじゃないか、と。  確かに、その通りかもしれないと思った。きっと、皆が喜んでくれれば、僕の願いも叶う。  それから、僕は色々と良いことをした。  風が強くて大人達が漁に出られない日は、僕が魚を取ってきてあげたし、サメが出て困っていれば、沖まで泳いで追い払ってきた。お礼を言われ、僕も嬉しくなってくる。皆、喜んでくれた。  迷子になった小さな子供を助けたこともある。島の大人達が総出で探したものの見つからず、どういうわけか海岸の岩壁の窪みで丸くなっていたのを僕が発見し、助けた。無事に助けることが出来て、皆も喜んでいる。僕も嬉しい。  作業を手伝って欲しいと言われたこともある。海苔の養殖場を作りたいらしい。島の皆では海中の作業が上手く出来なかったので、全て僕が引き受けた。  皆、喜んでくれた。  皆が喜ぶと、僕も嬉しい。  僕は何度も皆を手伝い、皆を喜ばせた。  でも、いつになっても、数年経とうとも、僕の体には鱗が付いたままだったし、指の間の水掻きは一向に消えなかった。
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