月に跳ねる

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 僕はいつになったら人間になれるのだろう。  人間になって、皆と同じように町へ帰り、皆でご飯を食べてみたい。雨が降ったら家に帰って、朝が来たら学校へも行ってみたい。  もしかしたら、まだまだ良いことが足りないのかもしれない。もっと良いことをたくさんすれば、きっと僕は人間になれるはずだ。そう思って、僕はそれからもたくさん良いことをし続けた。  郊外の畑仕事も手伝い、土木作業も助けたこともある。町へ行ってはいけないので、島の円周上で起きた困り事へは極力顔を出して手伝った。僕が顔を出すと喜んでくれるし、皆も僕に良くしてくれる。何度も手伝い、何度も助け、何度もお礼を言われた。僕は何度でも皆を喜ばせたかった。いつか、人間になれるかもしれなかったから。  でも更に数年経っても、僕はまだ半魚人のままだった。  やがて遊んでくれた子供達は皆、学校を卒業し、島から出ていった。皆、大人になっていくらしい。  島の中では子供が極端に減り、学校も廃校となってしまったと聞く。少子化だ、過疎化だ、と大人達は嘆いていたが、僕に出来ることも無かったので、皆を喜ばせることは出来なかった。  子供達は皆、また遊ぼう、と口を揃えて島を出ていく。  でも、その後、いくら待っても誰も遊びには来てくれなかった。  皆、大人になってしまったのかもしれない。
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