月に跳ねる

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 僕は島を離れ、少し離れた無人島へ移った。  ここは食べ物も豊富で、暮らすには不便は無い。外敵もいなければ、大人も子供もいない。静かで、とても寂しい場所だった。  でも、もう僕は誰かを喜ばせたりしなくていいし、僕も喜ばなくていい。  僕は毎日自分の分だけ魚や貝を獲って食べ、雨に打たれて木陰で眠れば、それで済む。誰も僕に町へ来るなと言わないし、出ていけとも言わない。(あて)の無い自由は少し重たかったけど、どちらが良かったなんて、もう僕には何の関係も無いことに思えた。  少しぼんやりと空を眺める。  夕暮れ前の水晶色の空に白い月が浮かんでいる。  島で見た月と同じで、小さくて丸い。  月も僕も人間も、きっと以前と何も変わってはいない。だから誰かが悪いとか、そういうことでは無いんだ。  また、雨が降ってきた。  夕立だ。  浜辺で雨に降られながら座っていると、雨宿りし損ねた小鳥が1羽、僕の膝の上に止まる。  鳥はきっと、雨さえ降らなければ、その羽根で何処へでも自由に飛んでいける。月が見える場所まで、すぐに飛んでいける。  人間ではなく、鳥になりたいと願っていたら、今頃僕は何処にいたんだろう。  雨の音がうるさい。  視界が濁る。  僕が少しだけ大きな声で(うな)ると、小鳥は驚き、去っていく。  なんだか、雨に打たれて悲しむ理由が、少しだけわかった気がした。  ――ごめんなさい。  雨の向こうの月へ向かって、言葉は跳ねた。 〈了〉
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