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目の前のパソコンの画面の中では、バーチャル世界でのパチンコの台があり「リーチ」と画面を派手に演出していた。
「あーあ、打ちに行きたいぜ」
もちろんこれは非現実的な物で、実物のように大当たりを引いてもお金に変わる事はない。いわゆる、ドーパミンを体感したくて暇つぶしを兼ねて遊んでいるだけの物である。
『俺も相(そう)さんと一緒に行きたい』
その時相の頭の中にそう声が聞こえてくる。
(…………まず会えないでしょ)
その声に相がそう答えると、返事が聞こえてこなくなる。
『相さんに連絡する』
プチ喪失感をため息と共に打ち消し、彼からの愛と共にその事に感謝するように思考を持って行こうとする。
彼は樋上 洋平(ひかみようへい)。出会った頃から彼はこんな感じで、相の頭の中に直接声を送ってくるのだ。言っておくが、相はサイキックなどの才能を持ち合わせていない。
彼とはこの世で魂を分け合った存在で、離れている距離に関わらず声をこうして送りあったり、相が見ている物を樋上が脳内で再現出来たり、悲しくもないのに相が涙を流したりする事がたまにあった。
これは前世が同じ体、同じ魂だった為こういう事が起こるのだ。普通どんなに好きな人であっても、自分の私生活を覗かれているというのは我慢ならないものだろう。しかし、彼の場合は何故か許せてしまうのだ。
「やった、確変だ」
バーチャルパチンコ台が虹色に輝き、大当たりを示していた。最近のゲームは大分進化していて、実機と同じ音楽が流れる物もあり家にいながらもホールさながらの躍動を感じられるのだ。
相は中々の屑だが、そんな相を愛してやまない彼も相当変態だろう。相だって彼にはもちろん会いたいのだが、現実は何か目に見えない力によって二人が再会する事を阻まれているように感じるのだ。
もちろんこんな事は他人から見たら気のせい、ただの妄想だと捉えるだろう。
相は妄想でも良かった。この愛に浸っていたかったのだ。そうしたら一瞬でもこの地獄の世界を忘れる事が出来た。
相が病気となり、長期休暇に入って彼と離れてからこの関係が普通の関係ではない事に気が付いた。生きていてなぜこんな壮絶な体験をしなければいけなかったのか、今までの恋愛で長続きしなかったのは全て彼に再会する為だったのだ。
「ねぇ、今度会ったらどうする?」
『結婚する』
相は思わず笑った。
(結婚って、こんなパチんかすなのに)
思えば彼は再会した頃から付き合ってもいないのに相に『結婚したい』と言っていた。心の中でだが。
愛してる。
言葉にせず声にすると、彼の感情が穏やかになりそれを感じられ相は愛おしさが込みあがるのを感じた。
このお話はそんな二人の日常の一部。
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