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医療崩壊
栗沢麻美(32)アパレルメーカー勤務。
栗沢尚也(34)麻美の夫。
栗沢咲紀(4)麻美と尚也の娘。
岸本晴美(29)麻美のママ友。
野々村美里(34)看護師。
***
●病室
F.I.ベッドに栗沢麻美(32)
意識が朦朧としている。鼻から酸素吸入をしている。一方を見る。
防護服の看護師がそばに来ていて、タブレット端末を操作しながら麻美の様子を見る。
看護師「まだ苦しいですね」
麻美「(小さくうなずく)」
看護師「もう少しの辛抱ですよ」
麻美「(小さくうなずく)」
看護師「(ウイルス防護用のゴーグル内の目がやさしくうなずく。目に特徴がある。病室の外へ)」
麻美「(見送っている。目をそらして記憶を辿り、もう一度看護師の方を見る)」
看護師「(出ていく後姿)」
●フラッシュインサート
野々村美里(34)の特徴のある目。
●病室
麻美の目が泳ぐ。
●タイトル
●保育園
桜が満開。画面に文字が「2週間前」
麻美が出勤の服装で娘の咲紀(4)を預けに来ている。同じような保護者と子供で混み合っている。
●駅に向かう道
麻美が速足で歩いていると、後ろから「麻美さん」と声をかける女の声。ママ友の岸本晴美(29)
麻美「(歩きをとめず振り向いて)おはよう」
晴美「(追いつき)もう出がけにウンチって言うから遅れちゃって」
ふたりともマスクをしている。
●通過する電車・インサート
●満員電車内
麻美が乗っている。
晴美の声「野々村さんて知ってますか」
麻美の声「知らない」
晴美の声「うちらの子より1つ上の男の子を預けてるお家で、そのママが看護師らしんですけど」
麻美の声「へぇ」
●駅に向かう道
麻美と晴美が駅に急いでいる続き。
晴美「その病院が○○病院らしく。あそこってコロナの患者受け入れてるじゃないですか」
麻美「あぁ」
晴美「だいじょぶなのかって。そのママも、そこんちの子も。そっから保育園に蔓延とか怖いじゃないですか」
麻美「病院でそういう対応してるの?」
晴美「今度萌絵さんが聞いてみるって。園の先生経由で確認」
●麻美の会社
アパレルメーカーのデザイン部門。デスクワーク。麻美が働いている。しばらく見せて、
晴美の声「やっぱそういう部署で働いてるっぽいです。コロナで入院した人の看護する病棟」
●保育園(夕方)
麻美が咲紀の迎えに来ている。
麻美の声「そうなの? だいじょうぶなの?」
晴美の声「とは言ったけど、アテになんないじゃないですか本人の言うことは。だいじょうぶって言うに決まってるし」
●栗沢家(夜)
麻美がキッチンで夕飯をつくっている。
麻美の声「うん」
晴美の声「園に通えないと困るんだろうし」
玄関のドアがあき夫の尚也(34)が帰ってくる。
麻美の声「でもそんな、もしものことあったらどうすんの。もしその人から広まったら」
晴美の声「ね。クラスターです」
夕飯を食べる麻美、尚也、咲紀。
麻美の声「徹底するなら自分の子は通わせないとか、今は休ませるとか、そういう配慮あっていいんじゃない?」
晴美の声「そう言ってるんですよみんなも。園長にもなんとかしろって言ってるのにグズグズで」
●保育園(後日・朝)
野々村美里が息子を預けに来ている。冒頭のフラッシュインサートの映像。特徴のある目。
晴美の声「あの人です」
少し離れて見ている麻美、晴美、萌絵(35)ともう2人のママ友。
美里の声「(先行して)なんでしょう」
●保育園近くの道
美里に対峙する麻美たち。全員マスクをしている。
萌絵「病院にお勤めだそうですね」
美里「ええ。急ぐんですが」
晴美「5分で済みます。コロナの対応してるんですって?」
美里「――まぁ」
萌絵「遠慮してくれてもいいんじゃないかな、じゃあ、今はお子さん通わすの」
美里「そんな――きちんと対策してますから」
麻美「絶対って言えます? もしものとき責任取れます?」
美里「でも、預けないと仕事ができないし」
萌絵「私らだってそう。今日だって忙しい朝、朝しかうまく会えないから時間割いてる」
麻美「園で広まったら、仕事どころじゃないですよね。子供たちにうつしいちゃいますよね」
美里「だけど」
晴美「リスク回避に何が一番か、どうすべきか、看護師さんならわかるんじゃないですか?」
萌絵「あなたも困るでしょうけど、私らも困る。みんなが困るの。困る数で言ったらどお? 多数決が当然なら、答えは決まりじゃない?」
●麻美の会社
麻美が働いている。咳をする。
●スーパー(夜)
麻美が咲紀を連れて買い物している。咳をする。
●栗沢家・洗面所
咲紀に手洗いの歌を歌わせながら、麻美が一緒に手洗い。麻美はマスクをしている。
尚也の声「(先行して)どうした家でもマスク」
●ダイニング
麻美「(マスク姿で食卓を並べていて)なんか咳が出るから、念のため」
尚也「(帰ってきたところで)まさかコロナじゃねぇだろうな」
麻美「そんなはずない。どれだけ気ぃつけてるか」
●ダイニング(時間経過)
尚也の声「(前シーンからこぼれて)まぁな」
麻美、尚也、咲紀が夕飯中。
尚也「そんなンよせよ。病院でみんなのために働いてんだぞ」
麻美「それとこれとは別でしょ。みんなのためを思うなら、そういう自粛も大事じゃない。必要でしょ」
尚也「それができない事情あんじゃないの」
麻美「事情ならこっちもある。みんなにある。咲紀がかかったらどうする?」
尚也「そりゃ――」
麻美「咲紀がかかってあなたも私もかかって。家族を守るためよ。リスクを減らそう、できる努力を最大限よろしくって、正しいことしてるつもりだけど」
尚也「うん――」
●街の情景(早朝)
●栗沢家・廊下
パジャマ姿の尚也が一室のドア前に来る。部屋の中から麻美が咳込むのが聞こえる。
尚也「(ノックし)どうした。だいじょぶか」
麻美の声「咳とまんないから」
尚也「ああ、出てって戻んないからどうしたかって」
●一室
荷物部屋のような部屋。麻美が客布団で寝ていて、
麻美「熱もある。8度8分」
尚也の声「そんなに?」
麻美「もしものことあるし、咲紀が来ないようカギ閉めとく。咲紀のことお願い」
●保育園
尚也が咲紀を預けに来ている。
●町医者
麻美が来ている。
医師「とりあえず解熱剤を出しましょう。それで4日間は様子を見て下さい。4日経っても下がらない場合は、コロナの疑いが出てきますから、保健所に問い合わせていただけますか」
●保育園
咲紀が友だちや保育士と触れ合う。
***
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