けっこんしき

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今年のシルバーウィークは、有給を使って九連休だ。実家の村でお祭りがあるから行ってみないか、と妻が誘ってくれたので、そうすることにした。 妻と結婚したのは10年前のこと。私たちに子どもはいない。お互いに仕事をしているので、平日は朝と夜のわずかな時間しか一緒にいられないが、休みの日は二人で外出したり、家で映画を観たりダラダラしたり、と楽しんでいる。 私はまだ、妻の実家へ行ったことがない。 結婚の挨拶を妻のご両親にしに行こうとしたが、なんとわざわざご両親の方が会いに来てくれた。 「いやあ、辺境の地ですからうちの村は」 私たちが村へ行くのが大変だから、という理由でわざわざ、しかも連絡なしでこちらへ来られたのには面食らったが、ご両親はとても柔和な態度で、妻と私の結婚を祝福してくれた。 村へ行くのが大変ということは、ご両親がこちらへ来られるのも大変だっただろうに。私は恐縮した。 なんとなく、私が村に行くことを良しとしていないんだろうな、という印象はあった。理由はわからない。妻にそれとなく訊いてみたが、 「ホントに行きにくいし、ドがつくほどの田舎なの。私があの村の出身ってわかったら、あなたが私をお嫁にもらってくれないって、お父さんとお母さんは思ったのかもしれないわ」 と、冗談めかしていたが、本気なのかもしれない、とふと思う。 秘密めいた妻の実家に興味がそそられなかったわけではないが、無理に本当のところはどうなんだ? と聞き出す必要もないし、仕事は忙しいし、休みの日は妻と一緒にいるだけで楽しいし、特に気にすることもなかった。 それが、ここにきて、である。
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