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霞んだ視界の先に微かな光が見える。
私は瞬きを繰り返した。
少しずつ視界がはっきりしてくると同時に、
身体の感覚もはっきりとしていく。
どうやら私は寝かされている。
見えていた光は、天井からぶら下がっている裸電球の光だった。淡い橙色の光は小さく、すぐに消えてしまいそうで心許ない。部屋の様子は暗すぎて、ほとんど何も見えない。
身体を起こそうとしたが、頭に鋭い痛みが走り、起き上がることができなかった。痛みはしばらく頭の中でひびき、私はそれに耐えるしかない。
重く、だるい右手で頭を触ると、布の感触がする。私は布を撫で、その布が自分の頭に巻き付けられていることを確認した。包帯、というよりはサラシのような質感だが……。その感触をおそるおそるたどり、後頭部に差し掛かったところで、そこが痛みのもとであることがわかった。再び訪れた痛みに私は耐え、もがいた。
怪我をしている。が、なぜそうなったのか、何も思い出せない。
ここに来る前、私はどこで何をしていた?
心臓がどく、どく、と強く打ち始める。
その音に合わせて、頭の傷が搏動する。
ここは、どこだ?
その時、すっ、と音がした。
私は身構えた。暗く限られた視界には、変わった様子はない。何の音だ。無意識に息を止め、耳に神経を集中させた。
すっ、すっ、という連続した音が聞こえる。
足音のようだが、誰かが近づいて来ているのだろうか。
「目、覚ましたな?」
真っ暗な空間から声が聞こえてきた。
私は驚き、身体がびくりと跳ねた。頭の傷に刺すような痛みが走る。
「すみませ、驚かすつもりなかっただ」
訛りが強く、話し声はこもっていて聞き取りづらい。誰なんだ。私は声のした方を思い切って見た。なんとなく、白っぽい人影が暗い空間に浮かび上がっているが、顔や姿はよく見えない。
「……誰だ」
「怪我の様子、見に来ただぉ」
声は低いが、男ではなさそうな気がする。しかし、女だという確信も持てない。
足音は近づいてくる。白っぽい人影はその輪郭を徐々にはっきりとさせていく。
白い腕が裸電球の灯りに照らされたのが見えた。むちっとした肉付きのよい腕だった。その腕が私の頭を持ち上げ、巻かれていた布をするりと外した。不思議と痛むことはなく、私はされるがままになっていた。ふう、ふう、と声を出しながら、白い腕の持ち主は私の頭を確認しているようだった。
「ちょと、痛いよ」
その言葉に私は身を硬くした。
片腕で私の頭を支えたまま、もう片方の腕で何かをしている。薬草のような匂いがする。匂いはきつく、少し気分が悪くなりそうだった。おそらく傷口に塗られるのだろうと覚悟し、私は目をかたく閉じた。
その薬草のような匂いのする何かが傷口に触れた途端、弾けるような痛みが頭を襲い、私は両目を見開いた。口も、鼻の穴も、身体中の毛穴も、何もかもが開ききって、先ほどまで暗かった視界が、今度は爆発的に明るくなった。
眩しすぎるほどの、白!!
私の意識はそこで、ふつりと途絶えた。
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