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「で、私は何を口走ったのかしら……」
二人は夏実の部屋にいた。一度入っているし、ここの方が話しやすかった。
夏実は麦茶を入れると、聡太の前に差し出す。
「まぁはっきり言えば、事細かに不倫のことを話してくれました」
夏実はテーブルに突っ伏す。やってしまった……。夏実は落ち込む。
「……軽蔑するよねぇ、不倫してた女なんて」
「でも夏実さん、最初は知らなかった、後から言われた、裏切られたって何回も言ってたよ。それを聞いて、相当辛かったんだなって思った」
夏実は突っ伏したまま顔を上げられなかった。なんとか嗚咽は堪えるが、涙が出て止まらなくなる。
そう、辛かった。悪いことをしている気がして苦しかったの。そして何より裏切られたことが悲しかった。
「本当はあの日さ、病院を出る時に夏実さんを見つけたんだ。いつもの笑顔じゃなくて、すごく辛そうな顔をしてたから気になった。でもみんなと約束してたからジムに行ったんだけど、帰り際に道路で座り込んで動けなくなった夏実さんを見つけてさ、そのままにしておくわけにもいかないから、ここまで連れてきたんだ」
聡太はティッシュの箱を夏実の前に置いた。
夏実は涙と鼻水を拭いながら顔を上げた。
「本当にご迷惑をおかけして……でも私、住所言える状態だった?」
聡太は笑って首を横に振る。
「ジムに電話して聞いた」
「……なるほど」
「でも俺さ、ちょっと得した気がしてたんだ」
「得?」
聡太は夏実の髪に手を触れる。じっと見つめる瞳に囚われて動けなくなる。
「そう。夏実さん、彼氏とちょうど別れたところでしょ? しかも家の場所まで知れたし」
髪の上を滑り降り、聡太の指が夏実の顎を持ち上げた。
「あの時、すごく悩んだよ。キスしようかなとか、既成事実作っちゃおうかなとか。でも我慢した」
「なんで……?」
「そりゃ夏実さんのことが好きだからでしょ? 気付かない?」
夏実は首を横に振る。
「夏実さん自転車出勤だし、仕事中もなかなか話せないし。だから同じジムに入ったんだけど」
聡太は夏実の顎を引き寄せ、唇が触れる寸前で止まる。
「嫌なら抵抗して」
聡太の言葉が甘く響く。夏実はされるがまま唇を塞がれ、目を閉じた。
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