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私は父と母の3人で、その年も七夕祭りにやってきた。乗ってきた新車を、市内の小学校の校庭につくられた臨時駐車場に停める。
私はしばらく、そこに設置されていたブランコで遊ぶことにした。私の通う学校にはない遊具をがちらほらある。この学校の子供たちは、なんと幸せ者だろうか。
そんなことを考えていたときだった。
1人の女の子が駆け寄ってきた。私は思わず後退りした。
背の高さと彼女の子供っぽくキラキラとした目や表情が、私にはひどく恐ろしかったのだ。
私に同じ年頃の友達がいなかったわけではない。ただ、子供でありながら子供が苦手だったのだ。
私はブランコを捨てて走った。後方で、空のブランコが揺れ続ける音がする。
足の裏が湿度の高い土をえぐっていく。私は視界の正面に映った上り棒へと急いだ。
彼女も走って追いかけてきた。なんとなく、彼女は上り棒が苦手な気がした。
だから飛び乗った。
本当は上り棒や鉄棒は好きではない。手が鉄臭くなるからだ。
しかし、今はそんなことを気にしていられない。彼女が追いかけてくる。できる限り上へ。
私はてっぺんより少し下のあたりで地上を見下ろした。
彼女は地上で戸惑っているように見えた。やはり、上れないのだ。
私は安堵した。彼女が諦めて、この場を去るのを待とう。
温風が、私の前髪をかき回した。必死につかまる指が、徐々に白くなり冷たくなっていく。
耐えなくては。スニーカーから湿った赤土が、ぼろっと落ちた。
それにしても、こんなに高くまで上ったのは初めてだ。感動と恐怖で、目がくらんだ。校庭が魚眼レンズ越しに見たかのように、歪んでみえる。
その歪んだ世界の端で、彼女は動きだした。
私の使っている棒の、隣の棒に両手を伸ばしている。
大丈夫、きっと彼女は上れない。
そう念じて、私は耐えた。
地上で彼女の頑張りが聞こえる。できるだけ高い位置へつかまろうと四苦八苦しているようだ。
ジャンプしては掴まり、そして放す。
それを繰り返している。
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