18人が本棚に入れています
本棚に追加
冷たい手汗が、鉄の粉と混じった。
もう間もなく限界がくる。震える両腕に、さらに力を込めた。
もう少し我慢、もう少し我慢。
力を入れるごとに、じんわりと滑り落ちてゆく。
少女よ、私のことはあきらめてくれ。
しかしなんということだろう。彼女は両手と両足を不器用に使い、上へこようとしているではないか。右手、左手、両足。少しずつのようで、早い。
私は限界の身体でもう少し耐えた。
彼女が上にきたら、すぐさま下りよう。きっと彼女は降りられない。
彼女が私の足元くらいの高さまで上ってきた。私はゆっくり下り始めた。本当は、今すぐ手足を放して落っこちたかった。しかし、やはり落ちるのは怖い。
なるべく下を見ないように、大急ぎで下りた。最後は飛び降りた。衝撃で手が地面に触れる。
ふわりと暖かい地面。
私は上り棒を見上げた。そして恐怖で頭が真っ白になった。
彼女が故意に落下したのだ。
とん、と湿気を含んだ土が鳴ると、彼女は両手を広げ 、通せんぼするように上り棒を掴んだ。真夏の太陽の笑顔で。
私は素早く彼女と上り棒をよけ、今度はジャングルジムに駆け上った。必死だった。背中に彼女の笑顔がヒリヒリと刺さる
下半分が水色で、上半分が黄色のかわいいジャングルジム。私は黄色に差し掛かるところまで上り、ジャングルジムの中心部へと潜っていった。
中心あたりにきたところで、振り返った。彼女の笑顔は変わっていない。
カンカンカン、と彼女の上ってくる音が脳内に響いてくる。
さぁどこへ逃げよう。上か、下か それともジャングルジムを抜けて別のところへ行くか。
彼女が黄色のパイプに手をかけた。私のいるところまで来るのに、あと20秒もかからないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!