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恐ろしかった。たまに夢にみる、何かから逃げたいのに思うように走れないときのようだった。
しかし、恐怖の追いかけっこはそこで終了した。彼女の母親がやってきて、
彼女を捕まえたのだ。
「うちの子がごめんなさいね」
彼女の母親が困ったように微笑んだ。
「いえ」
煙のような声が出た。
私はジャングルジムを下り、こちらを見て大笑いする両親の元へ急いだ。
「さっちゃん?どうしてあの子から逃げるの? あの子はさっちゃんと遊びたいの 。ほら行ってらっしゃい。あの子のお母さんにはちゃんとご挨拶したの?」
母は私の両肩をくるりと回し、前へ押し出した。
「うちの子がご迷惑をかけてしまったみたいで、すみません」
と再び向こうの母。
「いえいえ、こちらこそすみません。ほら、ごめんなさいは?」
母は私の背中を小突く。
「ごめんなさい」
今度は少ししっかりとした声が出た。
彼女のポニーテールがつんと跳ねる。
しかし、なぜ私が謝らなければならないのか、どうもよく理解ができない。それでも時間は進む。
間もなく、母親同士の話が盛り上がり始めた。ぼんやりと話の内容を覚えている。
彼女の家族は海外在住らしい。カナダかアメリカだった気がする。英語圏であるのは確かだ。
小学校も海外。彼女にとって 私は初めて見る同族だったのだ。
きっと彼女の友達の肌 は白か褐色だ。瞳もおそらく、真っ黒は少ない。同じ黄色っぽい肌、黒い瞳と髪 のっぺ りとした顔。同じくらいの身体つき。
そんな自分にそっくりな生き物を発見して、嬉しくならないはずがない。そのことは、 難なく理解できた。
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