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私は彼女とジャングルジムのてっぺんで話した。何を話したかは覚えていない。
おそらく、好きなアニメやキャラクターについてだろう。なんとなく、周りにはいない特別な友達ができたような、わくわくで心臓がぎゅっとなる感覚をおぼえている。
夕空の青が、ワントーン落ちた。いつの間にか、出店の賑わいが商店街を縁取っている。
「それではホテルの時間がありますので......」
彼女の母が腕時計を見やりながら言った。
私にも理解ができた。
私たちはジャングルジムを下りた。足を滑らせないように、ゆっくりと。
「ちょっとまって」
下りきって自分の母親の方へ行きかけたとき、彼女が言った。
振り返ると、彼女は少し前かがみになっていた。つけていたペンダントを外し 私に差し出している。
シルバーのチェーンにピンクのライトストーンのついた、ハート型のペンダント。私も母も戸惑った。
「お菓子か何かのおまけですので、お気になさらず」
彼女の母はなんでもないように笑う。
「でも子供にとっては宝物なんじゃないですか」
私の母の言葉を「いいんですよ、2つあるので」と彼女の母はにこやかにたたみかけた。
母は急いで車に戻った。そしてサラダ煎餅を持って戻ってきた。
私がぐずったときに両親が使う、魔法のお薬だ。
「こんなものしかなくて申し訳ないのですが」
母の本当に申し訳なさそうな声と同時に、彼女の両親が歓声をあげた。
「なにそれ」と私のそばを離れていく彼女。
私はもらったペンダントを眺めた。大人みたいだ。もちろん、おもちゃだというのは分かっている。
しかし、それは近所に住む高校生のお姉ちゃんが付けているものと同等だった。
ライトストーンの奥がチラチラと輝いている。まるで天の川が入っているみたいだ。
私は早速、それを首にかけた。
薄明の空には、二番目の星が瞬いていた。
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