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表情を強張らせる兄妹の前で、引き戸が勢いよく開かれる。眩い夏日を背負って現れたのは、奇抜なファッションを着こなした若い男だった。
歳の頃なら壱月と同じくらいかもしれない。館の人間のように袴を履いていない。藍色の浴衣のような衣装を、細かな刺繍が施された朱色の細帯で締めている。肩に掛けているのは、向こう側が透けて見えるほど薄い絹の羽織物。紗なのか絽なのかわからない薄絹も、目に映えるような朱。茜空のような羽織物の上を、黒い蝶が群れをなして飛び立つ姿が描かれている。
「そなたらか。昨晩じいを助けてくれた、奇妙なナリをした女子どもというのは」
いや、こんな派手なファッションの人間から、奇妙なナリと言われたくない。
反論をしようとしたところで、男の細帯に朱鞘の脇差と龍笛が挟まれていることに気づいた。ぎくりと顔が強張る。ここがどこかなんて知りたくもないしわかりたくもないが、平然と凶器を持ち歩く社会であるらしい。
「黙っていてはわからぬ。名を名乗れ」
「……犬丸壱月」
高圧的な男の態度に飲まれそうになるのを必死で堪える。奥二重の瞳を面白そうに歪めた男は、「名まで変わっておるな」と呟いて、いまだ布団の上にある椿へ視線を移した。視線が交わった瞬間、発火したように椿の頬がぽっと赤らんだ。
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