岐路

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 かつてここに城があったことを後世に残したくて無理やり整備したのだろうが、こうも人が寄ってこないところを見ると、税金の無駄遣いに思えて仕方がない。いつ来ても、閉ざされた箱庭のような空間で空を見上げている城主の石像が、思わず同情を覚えるほどに寂しげだ。  石像の真下に設置されたベンチへ腰を下ろした壱月は、つい癖で担いできた楽器ケースのチャックを開いた。中から顔を覗かせたのは、埋火のような夕陽に照らされて、黄金色に輝くトランペット。隣町の高校に通う壱月は、吹奏楽部に所属している。  一つ深呼吸をすると、マウスピースに唇を当てる。左手でしっかりと支えて、肩の力を抜く。ピストンに添える右手は力まずに。息を吹き込むと、音が出た。部活動の休憩時間に同級生とふざけ合って演奏していた歌謡曲を奏でる。弱々しい笛の音は、あっという間に葉擦れに掻き消されてしまった。  マウスピースに息を吹き込むたびに、頭の中が濁っていく。絶えずリプレイされるのは、コロッケを突き返された時に見せた、義母の悲しげな顔。違う。義母個人を攻撃したかったわけじゃない。ただ、家族のあり方がわからないだけだ。  家族とカテコライズされる者に、血の繋がりはたいした問題ではないらしい。実際にそうなのだろう。血の繋がりのない親子なんていまどき珍しい話ではないし、何なら夫婦は始めから他人だ。だったら、何を基準に家族は構成されていくのだろう。何を基準に選ばれるのだろう。壱月にはそれがわからない。
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