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「椿こそ、どうしてここに」
「塾の帰り」
「そっか」
「あんたは?」
ちなみに椿は壱月を名前で呼ばない。「あんた」か「ねえ」で事足りるらしい。
「俺は自主練」
「こんな時間に? お母さん、今日の夕飯はコロッケだって張り切っていたけど」
コロッケ。その禁断のワードに、細心の注意をしていたつもりだが、無意識に顔が引き攣っていたらしい。目敏く反応した椿が、険を帯びた口調になる。
「お母さんと何かあったの?」
「いや……別に」
「嘘。正直に言いなさいよ。あんたっていつもいい子ちゃんぶっているけど、本当は私達のことを迷惑に思っているんでしょ? 誤魔化したって無駄なんだから」
朱に染まった小作りの顔から、咄嗟に目を逸らしていた。
思春期の少女らしく、髪を明るい色に染め、少々濃すぎるくらいのメイクが施されているが、椿は整った顔立ちをしている。美少女が激昂している姿には、それなりの迫力がある。しかし、怒れる椿から目を逸らした理由はそれではない。
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