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「おなごも一緒だったのか」
聞き慣れない単語に耳を傾ける。おなごって。いまどき時代劇でしか聞かない単語だ。
たまたま通りがかった、時代錯誤なジイさんに助けられたのか? 警戒心がなかったわけではないけれど、今は何よりここを離れたい。ジイさんに引っ張られるまま足を踏み出した壱月は、背後で響いた声にまたもや変な声を出しそうになった。
「牛久様。下手人を取り逃がしました」
「よい。深追いはするな。心当たりは大いにあるからの。それよりも、まだ明かりを灯すなよ。下手人に、的はここだと教えるようなものだからな」
……なんだ、この会話。本当に時代劇に迷い込んだかのようだ。
ジイさんに引っ張られるまま、明かりのある方へ駆けた壱月は、次第に輪郭を結んでいく風景に膝が震えるのを感じた。
先程から必死に駆けている地面が、コンクリートで整備された道ではないことには気づいていた。だが、次第に開けていく視界に、コンクリートの建物が一つもないのは尋常ではない。不自然なほどの暗闇の中に、掘っ立て小屋のような建物がぽつぽつと連なっている。豊かすぎるほどに生い茂った夏草が、涼を含んだ夜風にそよそよと揺れる。
「なにここ……」
傍で椿が呆然と呟く声が聞こえた。見なくても真っ青な顔をしているのはわかった。自分も似たり寄ったりだろうから。
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