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男子生徒たちが廊下を走り回り、小雨がコナラの葉を叩く音だけが過ぎていく時間。見るからに萎縮した氷雨が、立ち上がって頭を下げてくる。
「失礼な物言いでした、スイマセン……」
萎れたアジサイみたいだった。僕は舌を叩いて睨みつける。
「謝らないでくれ。嫌いなんだよ、それは」
正直、謝られるのは好きじゃない。
それは「許す」か「許さない」かの二択を強制させる言葉だ。
「消えてくれないか。僕は君に謝ってもらいたいんじゃない、君にされたことをとっとと忘れてしまいたいんだ」
「あ、あは。じゃあ、失礼します……」
ゆっくりと腰を上げて、氷雨が帰っていく。
去り際に、氷雨は無理して笑おうとしたのだろうか。どうでもいいことだ。
微かに痛んだ胸の表面諸共、二度と現れないでほしい。
「バカな奴」
浮いていた腰を隣に下ろして、若は言った。
僕はイチゴオレの残りを飲み干す。
「僕が?」
「どっちも。お前だって一昨日助けられてただろ」
無意識に吸い続けたストローの先で、紙パックがべこりと凹んだ。
「わかってるよ、そんなこと」
中身のないイチゴオレを握りしめる。
甘い飛沫が喉を叩く。
ごぽりと胸の底で沸き立った、酸素のような重い泡。その感情はきっと、罪悪感なんかじゃない。
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