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踊るように回る雨傘。
楽しげな叫び声、水気を孕んだ運動靴。三人分の足音が、べしょべしょとアスファルトを叩く。
先頭で傘をさす赤い髪を追って、僕らは国道に繋がる下校路を走った。
先頭に氷雨、真ん中に僕、一番後ろに若。
そう言えば昔見た映画で、こんな陣形があったなと思い出す。確かファランクスだ。前列が守り、中列が槍を構え後列が待機する。
氷雨もそれを知ってか、威勢よく声を上げて僕らの前を歩いた。
「うおー行くッスよー! ペルシア軍を蹴散らすぞー!」
「もう滅んでるよ」
盾のように傘をさして、氷雨が振り返ってくる。
「パイセンたちー、遅れちゃダメッスよー!」
雨に濡れた顔が、不釣り合いなほど輝いている。
「笑うと目がなくなるんだな」なんて思いながら、顔面をまんべんなく雨に叩かれた。
「いや待って冷たい、てか全身痛い。これ僕ら雨ダイレクトに受けてるから」
「背ぇ高いんスよ二人ともー、腰下げて下げて。そんなんじゃ戦場は生き残れないっスよー!」
テンションが高い。
言われた通り腰をかがめて走る僕らは、端から見れば滑稽なことだろう。変わらず頭を弾く雨粒が、頭蓋にばらばらと雨音を響かせる。
「見てくださいよ、あそこの空!」
曇天に晴れ間とも呼べないような光が透けたのは、国道を渡りきった頃だった。
駅に続く細道を僕らは走り続けている。濡れた靴下も前髪も気にせず、ただ氷雨だけを見て走っている。
だからこそ、だったのかもしれない。
「もうじき、晴れるかもっスねっ」
雨明けの滲む光が照らす横顔。
頬に乗った雨粒が、キラリと輝くその顔に。僕は心臓をくすぐられたような気がした。
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