愛で世界は救えない

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 愛で世界は救えない。  誰かがそんなことを言っていたような気がする。  だったら僕は、愛で世界を壊してやろうと思った。どうせ世界は優しくなれないし、悪人が突然改心することもない。  それなら悪人を消してしまう方がずっと早い。きっと悪疫(ヴィラン)のいない世界は、消去法的に優しくなるだろうから。 「同じ土俵に立ってどうすんだ」  と若が言った。  小雨が葉を打つ帰り道。閑静な住宅街を歩きながら、僕らは墓地に向かっている。 「虐待されてたっつーお前の気持ちはある程度わかるけどな。愛情そのものを否定してんのに、肝心のやり口が愛情頼りなんて阿保らしいぜ」  「いや、実際バカか」と付け加えた若をカバンで殴る。  置き勉で軽くなったカバンが、ごそりと立てた空の音。形の崩れたカバンを整えて、僕は若を睨む。 「一言多い。あと若よりは偏差値高い」 「誰もンなこと言ってねぇよ。行動がバカだっつってんだよ女殺し」 「男だって殺せるようになりたいよ」 「狂ってんな」  若も僕も、どうしようもなく荒れた中学の出だった。  若さと将来の不安を持て余して、人一倍強い自己顕示欲を満たすためだけに、他人と違う自分を探し続ける。  その方法がケンカや教師への反抗だった。 「どっちもイケるようになりゃいいだろ」 「男はどこが結晶化するんだろうな」 「知らね。キャン玉じゃねぇの」 「それ殺せるの」 「じゃあ精巣か、睾丸」 「みんな仲良く金玉なんだよ」  くだらない話をアスファルトに落としながら、小雨の帰り道を歩く。傘をさすほどでもない。  石ころを蹴っ飛ばして、時々教師の悪口を笑い飛ばして。そうして曲がった角の先に、一つの集団が見えた。 「ンだ、あれ」  最初に気付いたのは若だった。
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