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底辺校とは言え、睦宮は学内でもトップの成績を修めていた。
成績も素行も悪い僕では釣り合えない。長い時間を勉強とアプローチに費やして、ようやく交際を開始したのは、凱世の死から二か月後のことだった。
毎日勉強会やデートを楽しんで、時々静かな部屋で何するでもなく並んで座った。今になって思えば、それはキスやその先を待っていたのだと思う。
けれど僕に、そこから先に進む勇気はなかった。
ただでさえ凱世の恋人を寝取ったような状況なんだ。求められる恋人像に徹しようとする度に、僕の胸は有り得ないほど痛んだ。
吐き気がした。自分が汚れてしまったのだと思った。それが耐えられなかった。
だったらもう、僕は「僕」を捨てるべきだと思った。
「──やっとキス、してくれたね」
中学三年も終わりが見え始めた一月。
僕と睦宮はキスをした。付き合って三ヶ月目のことだった。
淡いキスはスライムを詰めたように柔らかく、温い熱を孕んだ感触が唇に貼り付く。
それが僕らの、最初で最期のキスだった。
僕は吐き気を堪えて、はにかむ彼女に笑いかける。
「愛してるよ」
瞬間、睦宮は少し後ろめたそうな顔をした。そのすぐ後に、誤魔化すようなキスが迫ってくる。
「うん、私も愛してるよ」
それが最期の瞬間だった。
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