僕がヒーローになれない証明

3/5
前へ
/204ページ
次へ
 底辺校とは言え、睦宮は学内でもトップの成績を修めていた。  成績も素行も悪い僕では釣り合えない。長い時間を勉強とアプローチに費やして、ようやく交際を開始したのは、凱世の死から二か月後のことだった。  毎日勉強会やデートを楽しんで、時々静かな部屋で何するでもなく並んで座った。今になって思えば、それはキスやその先を待っていたのだと思う。  けれど僕に、そこから先に進む勇気はなかった。  ただでさえ凱世の恋人を寝取ったような状況なんだ。求められる恋人像に徹しようとする度に、僕の胸は有り得ないほど痛んだ。  吐き気がした。自分が汚れてしまったのだと思った。それが耐えられなかった。  だったらもう、僕は「僕」を捨てるべきだと思った。 「──やっとキス、してくれたね」  中学三年も終わりが見え始めた一月。  僕と睦宮はキスをした。付き合って三ヶ月目のことだった。  淡いキスはスライムを詰めたように柔らかく、温い熱を孕んだ感触が唇に貼り付く。  それが僕らの、最初で最期のキスだった。  僕は吐き気を堪えて、はにかむ彼女に笑いかける。 「愛してるよ」  瞬間、睦宮は少し後ろめたそうな顔をした。そのすぐ後に、誤魔化すようなキスが迫ってくる。 「うん、私も愛してるよ」  それが最期の瞬間だった。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加