ままごと遊び

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 ハーフアップの黒髪をばらりと解いて、気の強そうな少女が詰め寄ってくる。  彼女は僕の唇からタバコを奪って、渋い顔をする若に見せつけた。 「アンタが早死にするんは勝手やけど、法律ぐらい守りーや半端者(ハンパもん)」 「るっせぇなー芽衣花は、いっつもいっつも喧々喧々」 「いらんことばっかするからやろ!」 「あの、それ、返してくれるかな」  怒鳴る芽衣花に、気だるげに受け流す若。巻き込まれる僕。中学から変わらない、いつもの光景。  手を伸ばす僕を、鋭い目が()め付ける。 「晴冴も晴冴。なんで一緒に吸ってんの? 没収です」 「今タバコ高いのに」 「丁度(ちょーど)えーやん、禁煙し」  肩を竦める。  「ソイツにはもう何回も成功したんだよ」と思ったけれど、言わないでおいた。  芽衣花に敵わないのは僕も同じだった。中学の頃からケンカをしては怒られて、タバコを吸ってはゲンコツをもらった。  明らかに温度差の違う怒り方に気付いたのは、いつのことだったか。 「てか手ぇ怪我してるやん晴冴。ねぇ礼!」 「なんで毎回俺なんだよ、なんもしてねぇって」 「また喧嘩巻き込んだんやろっ」  普段の二人に嫌悪感はない。  もしかすると、互いに「ずっとこの関係が続けばいい」と思っているのかもしれない。  けれど、今日は様子が違った。 「……もういいわ、お前」  突然、若がベンチの背を殴り付けた。 「何言っても通じねぇし。行くわ」  立ち上がった若の背は、ため息の分だけしぼんで見えた。  そのまま公園を出ていく背を、芽衣花の歪んだ声が追いかける。 「待ってや、話まだ済んでへんやん。どこ行くんよ」  端から見れば両想い。それでもお互いが本心を伝えられないのは、近すぎる距離感や臆病のせいだ。  でも、それだけじゃない。 「……彼女出来たから、そいつのとこ」  芽衣花以外の女子と付き合うことで、若は自分の想いから逃げている。  そのせいで彼らは、どうしようもない失恋を繰り返していた。

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