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おやすみ、また
この街に住む怪物は永い永い生命を持っていた。それが、彼が怪物である理由だ。
「たった500年だ」
「あら。たった、じゃないわよ」
クスクス笑った女は同じくらいに見える男の背中を叩いた。
男は少し丸めの目が映える可愛らしい顔立ちをしており、細身のスーツの上から高級そうな生地のフロックコートを身に纏っていた。
「人間より、多少長生きしているだけだ」
乾いた風が頬を撫で、男の柔らかいブロンドの髪が揺れた。
風に靡く髪の隙間から見える切なげで、どこか執念にも似た熱い瞳は優しい緑色をしている。
女はそんな男の瞳が好きだった。
「そういう所も好きよ」
「またこじつけるように」
フンと鼻で笑った男は女を見下ろすと緑色の瞳を歪めて意地悪そうに唇の端を持ち上げた。
「おれが人喰いの化け物だったらどうする?」
「構わないわ」
女は男の細腕に腕を絡ませると身体を寄せた。
「構わないの……」
「本当に物好きだ」
男は男自身の綺麗な顔に惹かれているのだとばかり、今だって口から出任せを言っているのだと思っていた。
口から出る皮肉と同じくらい、彼の思考は捻れているのだから仕方がない。
長く生きると色々な事が見えてくるのだ。
「……君は」
男は小さくため息をついた。女は腕に絡みついたまま、そっと顔を上げると長いまつ毛の隙間から覗く緑色の瞳が切なく揺れていたのを見た。
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