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「アタシ、女だから『男気』とかないし!
ってか、デコピンはいいだろ!
なんでアタシ、食べたくもないたこ焼きのお金払わされる上に、デコピンまでされなきゃいけないんだよっ!」
「はい、サトミ。
また『男気』がない発言ね、デコピン2発」
愛美はまた笑って、サトミの発言を拾い上げた。
「もうー、勘弁してよ!」
普段、クラスで「黒髪清楚系美少女」を演じてるサトミだけど、この時ばかりは納得がいかなかったらしく、サトミは長い髪を激しく振り乱した。
そして、サトミのそのレアな光景を見た私と実穂は、段々とこらえきれなくなり、声を上げて笑った。
「まぁ、ホントは安倍まりあにデコピンしたかったんだけどね、アタシ」
その時、愛美が盛り上がった場の空気に冷や水でも浴びせるように独りごちる。
……あっ、やっぱりまだ怒ってたのね。
ご、ごめんね愛美。
私は心の中で詫びると、愛美の視界に入らない場所に移動し、サトミがデコピンされる様を遠目で見ていた。
その時だった。
ハタチくらいの体格のいい男の人が、公園の前を通り過ぎる際、私に小さく会釈をしてきたのだ。
「えっ、な、何!」
驚いた私は、訳も分からず頭を下げ返す。
どっかで見た事がある顔だな、と私は思った。
けど、私はその顔を瞬時に思い出す事が出来なかった。
ちなみに、その男の人が吉田の組事務所で見た「ヒロ」だと気づくのは、家に帰って寝る寸前という、大分後になっての事。
そして、そのヒロがまた一つ事態をややこしくさせる事件を、この後に起こすのである。
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