七夕当日【ディナー後】

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七夕当日【ディナー後】

「今日は楽しかった」 「そうね」  天の川の真ん中まで来た織姫と彦星は、どちらからともなく向かい合わせになった。見つめ合い、同時に発声する。 「あのさ」 「あのね」 「ごめん、先いいよ」  彦星は「俺のこと好きだよな?」と確かめるために。 「ううん。彦星くんからどうぞ」  織姫は「私と別れてほしいの」と切り出すために。 「俺……」  彦星は織姫のまっすぐな目が怖くなった。自分のことを信じ切っている目だと感じたのだ。それを裏切っている自分が、急に醜く思えた。 「今年は会えてよかったよ」  本心からの笑顔を織姫に向ける。  それを見た織姫は、自責の念にかられた。新婚の頃の気持ちをじわじわと思い出す。 「私も会えて嬉しかったわ」  そこに偽りはなかった。 「また来年も会えたらいいわね」 「そうだね。じゃ、おやすみ」 「ええ、おやすみなさい」  二人は橋の真ん中で背中合わせになる。一歩ずつ、それぞれの住む場所へ歩き出した。  二人とも、今日の愛おしい気持ちは、日常に戻ったら徐々に薄れてしまうことを知っている。遠くに住む配偶者を思うより、近くにいる異性に心惹かれる時間が長くなることを実感している。何しろ、こんな暮らしを十年も続けているのだ。  着かず離れず、年一回の逢瀬。この関係をいつまで続けるのだろうか。お互いそう思っていることなど知らずに、二人はまた、それぞれの場所で「幸せに」暮らしはじめる。
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