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「そんなに仕事をサボるなら、お前たちが会えるのは年に一回、七月七日だけだ」
父親がカンカンに怒り、別居するようになったのは、結婚して同居を始め、たった三か月しか経っていない時だった。織姫は泣いて暮らし、彦星は呆然と過ごした。待ちに待った次の七月七日は土砂降りで、カササギも橋をかけられないほど川が増水していた。織姫も彦星も絶望した。
あの頃は、片時も離れたくないほどお互いのことが好きだったのだ。織姫はくすりと笑い声を漏らす。
「どうしたんだ?」
「昔のことを思い出していたの」
「そうか」
彦星は遠くを見つめ、目を細めた。彦星もまた、若かりしころを懐古しているのだろう。
「ねえ、彦星くん」
「なんだ?」
「今年は会えて嬉しいわ」
「織姫ちゃんが元気そうでよかったよ」
織姫と彦星は前を見据えて歩き続ける。
お互いに「相手はまだ自分のことが好きなのだろうな」と考えながら。
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