1. はじまりの夢

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1. はじまりの夢

 ーーここは、あの世だろうか。  薄っすらと重い(まぶた)を開ける。白い天井と見覚えのある自室の勉強机、それに紺碧(こんぺき)のカーテン。  やっぱり夢だった、と頭の中では冷静なのに、心臓の音は尋常(じんじょう)じゃない速さで動いている。  屋上から落ちて行く感覚はスローモーションのようで、ジェットコースターの急降下よりも風を切っていた。バンジージャンプはしたことがないけど、あんな体感なのかと思うほど夢にしてはリアルだった。  あれが正夢になったら、楽になるんだろうか。一瞬過った考えを捨てて、窓の外を見る。  今日も、皮肉なほど晴天だ。  まあ、鮮やかな雨が降る美しい光景を見れたのだから悪い体験ではなかったのかも、と額の冷や汗を(ぬぐ)う。  汗と言えば、今日は真夏の日差しを(たくわ)えたじとっとした空気を感じない。どちらかといえば、二階で寝ていたことを忘れさせるほど、さらっとしている。  あれ、何かおかしい。寝巻きに袖が付いている。昨夜は半袖で布団へ入ったはずだ。当たり前だ。八月という猛暑なのだから。  リビングへ降りて、さらに疑問が増えた。新聞を片手に朝食を終えた父は、見ているこっちが暑苦しさを感じる服装をしている。もちろん、母も同様に。  八月にそろって長袖なんて、どういうジョークだ?  状況が飲み込めず突っ立っていると、妙なフレーズがテレビから聞こえてきた。 「四月の風物詩でもあるチューリップは、今日、四月十六日の誕生花でもあり……」 「四月……? いやいや、もう八月だから」  画面越しの女子アナウンサーにツッコミを入れる声が、段々と渇いた笑いに変わっていく。  何を言っているんだというような顔で、両親が僕に視線を送った。どう考えても、普通じゃないのはみんなの方なのに。
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