1. はじまりの夢

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 昨日は、八月二十一日。日南菫(ひなみすみれ)の葬儀が行われた日だ。  もの苦しさと肺が重くなるような空気を味わったばかりで、寝顔のように綺麗な顔もまだ脳裏に残っている。だから、間違えるはずがない。 「(そよぎ)、おかしな事を言っていないで、早く制服に着替えてらっしゃい。生徒会長が新学期早々に遅刻だなんて、(しめ)しがつかないでしょう」  真面目な顔で淡々と話す声が、不鮮明な世界に現実味を帯びさせた。エイプリルフールは終わっているし、騙しているようには見えない。  そもそも、母はそんな冗談を言うような人ではない。  正常じゃないのは、僕の方なのか?  カレンダーを確認してみると、たしかに四月だ。  一度過ぎ去った過去へ戻って来てしまったのか。はたまた、今までが予測していた未来を見ていたとでも言うのか。  どちらにしろ、今日は四月十六日として登校するしかない。  昨日まで薄いカッターシャツを着ていたから、春制服に袖を通すことに違和感がある。  体感温度では適性の格好をしているはずなのに、カーディガンを羽織る生徒たちを見ていると、どうしても暑苦しさが拭えない。梅干しを見ただけで唾液(だえき)が出るような、先入観の問題なのだろうか。  廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。 「直江、おはよう。今度の試合、からな。お前にかかってるぞ」 「……はい」 「ああ、直江くん。この前は、補修の問題手伝ってくれてありがとう。さすが、君はだね」 「……いえ」  息が詰まる。僕は優等生になりたいわけじゃない。求められることに、期待に応えなければと思っているだけだ。  また、この重圧した毎日をやり直さなければならないのかと思うと、肺が重くなった。
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