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そのころ、霊斬は表から屋敷内に入り、雑魚と戦っていた。
「曲者だ!」
などと、男達の怒鳴り声が響く中、霊斬は一人ずつ、戦闘不能にしていく。
男達の呻き声が、遣る瀬無い声が、庭に響く。
溢れ出してくる男達の波を、たった独りで抗う。
殺意があるのは男達だけで、霊斬は殺意を宿しながらも、決して殺そうとはしなかった。深手を負わせることだけを考えていた。
身体の一部を欠損したり、深く傷つけられた男達を背中に、霊斬は鮮血の滴る黒刀を構えて、一部屋ずつ障子を開けていく。
悲鳴を上げようとした女を黙らせた男は、刀を抜いて構えた。
「このことはおそらくだが、古野間様は知らぬ。私がここで倒せば、問題ない」
「できるものなら……やってみろ」
不敵に嗤った霊斬は、黒刀を手に突っ込んだ。
振り下ろした刃は、男によって防がれる。
幾度となく刀同士がぶつかる音が響く。
それをただ、黙って見ている女に、霊斬はちらりと視線を向けると、恐怖のためか目を大きく見開いていて、叫ばないようにか口を手で押さえている。
――この俺が、怖く見えるのか。
霊斬は内心で呟くも、不思議に思った。
恐怖をあからさまにあらわす奴はなん人も見てきたが、恐怖を隠そうとこらえているのを見るのは、初めてだった。
男の胸を斬りつけ、腹を蹴り飛ばすと、男は壁にぶつかり、頭でも打ったのか、気を失う。
女はそれを見つめ、口を必死に押さえた。
「貴様は見逃す。大人しくしていたからな」
霊斬はそう言うと、部屋を出た。
次々に部屋の障子を開けては、男を斬りつけるということを繰り返した霊斬は、もう何部屋かなど忘れてしまっていた。それでも、傷ひとつ負わずに、戦っていた。
そのころ、屋根裏を駆けていた千砂が歩みを止め、板をずらす。
そこには盃を手に、のんびり酒を楽しんでいる古野間の姿があった。
霊斬は障子を僅かに開けてそれを眺めながら思う。
――昼間のことは、なんとも思っていなさそうだな。
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