僕と、彼の結婚

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 連載は順調で、放映が開始されたアニメの評判も上々。カプセルトイやコンビニとのタイアップ企画等々、様々な企業から商品化の打診も相次いでいるそうで、財政的には右肩上がりの傾向が保証されているようなものだった。  そろそろ僕が、達仁に報いてあげるべき番だ。  僕がこうして漫画家として成功する事ができたのは、ひとえに達仁のサポートあっての事だ。あの時達仁が結婚を提案し、僕を養ってくれなかったら、僕は漫画家としての道を絶っていただろう。  今の僕があるのは、達仁のお陰なのだ。  ただし僕には、達仁に何をしてあげるべきなのか皆目見当もつかなかった。取り急ぎ今後の家賃は僕が負担するとして、まずは彼が欲しい物でも聞いてみるべきか。車の一台ぐらいプレゼントしても悪くはないかもしれない。それとも色々と心配や面倒をかけた彼の両親への贈り物を相談した方が良いか。  事務所の引っ越し作業を終え、足立君達を帰した後で、僕は心なしかウキウキした足取りで家路を急いだ。  事務所の方は平日を選んで引越しを進めてしまったが、達仁の荷物を含めた自宅の引っ越しは次の休日を予定していた。さんざん世話になった社宅での生活も、残す所あと僅かだ。名残惜しい気持ちもあるが、二人で感傷に浸りながら、荷物を整理するのも悪くないだろう。  帰り着いたのはまだ六時だというのに、珍しく玄関の鍵が開いていた。いつもなら達仁は八時近くならないと帰宅しないのに、ずいぶんと早い。引越しの準備があるからと、早目に退社したのだろうか。  だったらいっそ、引っ越しの前祝いを兼ねて二人で外に食事にでも行こうか。そういえばもう長い事、二人で出掛けた覚えもない。 「おかえり。今日はずいぶん早かっ……」  ドアを開けた僕は、我が目を疑った。  僕達が住んでいた部屋からはすっかり荷物が消え伏せ、がらんどうの部屋の中央に、役所の名前が印字された無機質な封筒だけが一つ、ポツンと取り残されていた。
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