僕と、彼の結婚

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   ※     ※     ※  与一へ。いや、花本薫先生へ  今さらだけど週刊誌への連載、おめでとう。アニメ化、おめでとう。  遂に夢が叶ったんだな。  けど、俺からはお前に伝えておかなければならない事がある。  ずっと嘘をついていてごめん。  お前の才能を信じてるって。  お前の成功を信じてるって。  全部、嘘だった。  本当は、成功なんてしなければいいと思ってた。  ずっと俺の部屋で、漫画を描き続けてくれていればそれで良かったんだ。  俺は、お前が俺のパートナーとして側にいてくれるだけで良かった。  俺は本当はずっと前から、ただ一人の人間として、お前を愛していたんだ。  どんな形であれ、お前を俺のものにしていられれば、それで満足だった。例え俺の本当の気持ちにお前が気づいてくれなくても、俺から打ち明ける事が無かったとしても、お前が側にいてくれるだけで、俺は幸せだった。  でも、まさかな。本当に夢を叶えてしまうなんて。  連載が決まったと嬉しそうにお前が言ったその日から、俺はずっと罪悪感を抱えてきた。さっさと打ち切られて、またただの夢追い人に戻ればいいって、何度願った事か。  俺はお前を応援しているフリをして、お前の失敗を望んでいたんだよ。お前が夢を叶えて、俺のもとから離れていくのがどうしようもなく怖かった。  だから、こうしてお前が出て行く日が来るのを、今か今かと怯えながら待ち続けてた。わかるだろ? 俺はもう、お前と一緒にはいられない。俺みたいな最低な人間は、お前のパートナーで居続ける事はできないんだ。  でもさ、最後に恨み言の一つも言わせてくれよ。  一緒に住んで、どんなに同じ時間を過ごしても、俺の気持ちに全然気づいてくれないなんて、結構ショックだったぜ。まぁ、漫画描くのに必死だったもんな。仕方ないよな。  これからも面白い漫画を描き続けて、いずれは新しいパートナーでも見つけて下さい。先生の幸せを、心より願っています。  達仁より
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