第18章 少し恋に似た何か

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でもそれまであと半年以上あるし。その頃には哉多だって、わたしと存分に遊んでもう気が済んでるんじゃないかな。 たまたま手の届くところにわたしがいて、やたらと視界に入るから気になってずっとちょっかい出していたんだろうけど。結局してしまえば他の女の子と較べてどうってこともないはずだから、ほどほどに付き合っていればそのうち自然とまた新しい子に関心が向かうだろうと思う。 ちょうど就職して新たな環境に入っていく頃合いに重なるし。わたしは専門学校、奴は何になるつもりか知らないが心機一転社会人として、お互い別々の道に進むことになるだろう。 それまでの間、今は人間関係や周りの環境を変える気力がどうしても湧かないわたしとしてはこうして受け身ながら哉多がやってきた時だけ欲求に応える。というのも案外悪くない話なのかもしれない。 こっちから積極的に動く必要もなく、向こうのペースで求められるときだけ気を紛らわせていっとき嫌なことを忘れられる。そしてお互い飽きたら自然と関係が解消されるんだ。 そこに面倒や複雑な感情もないし。そう考えると最初に思ったよりわたしたち、意外と悪くない組み合わせなのかも。 考えに耽っているわたしの反応を誘おうとしてか、奴がわたしを寝返りさせて背後に回り両手できゅっ、とまだむき出しの胸を掴んだ。あ、もう。また勝手に。一度したからって我が物顔だ。実に、油断も隙もない。 「…今夜ここで寝るよな、眞珂?別に自分の部屋戻んなくていいだろ」 「え。…そういうわけにいかないよ。朝起きてわたしいなかったら。ノマドが不安に思うじゃん」 いいけど両手のひらを動かすな。微妙に変な気分になりかけるだろうが。 奴は甘える態度丸出しでわたしの襟首に頬を寄せ、猫みたいに目を細めて話しかけてきた。なんか、今にもごろごろ喉を鳴らしそうな顔つき。 まさか自分がこうやって猫に化けてノマドのポジションに成り代わろうってつもりじゃないよね。と疑いたくなるくらい今日の哉多はちょっと猫じみてるな、と思う。 「お前子持ちのシングルマザーかよ。猫はそんなの気にしないんじゃないの。朝ちょっと早めに起きて、こっそり戻ればそれでいいじゃん」 「簡単に言うなぁ。わたしだってそう都合よく明け方に目が覚めるとは限らないよ。うっかり寝過ごしちゃうかもしれないじゃん」 ただでさえ今夜はいろいろあって。変に頭が冴えてすぐには寝つけそうもないのに。いつもよりだいぶ遅くに眠りに落ちたとしたら、明日の朝は普段通りの時間にちゃんと起きられるかどうかさえ自信がない。 そこまで考えてふと思いついた。 普段はくりっとした丸い目を糸みたいに細めて、どこか幸せそうにふかっとわたしの首筋に顔を埋めてる奴の頭に手を添えた。軽くくしゃっと髪をかき混ぜながら尋ねてみる。 「そしたらさ。今夜、哉多が寝つくまで一緒にここにいてあげる。その代わりちゃんと眠ったの見届けたら、そうっと自分の部屋に戻るけどいい?やっぱりノマドのことちょっと心配なんだ。わたし、一晩部屋空けたこと今までないもんだから」 「過保護だなぁ。てか、そんな器用なことできんの?俺のこと寝かしつけるつもりでつい自分もつられて朝までここで寝ちゃうんじゃないかな。まあ俺の方は。別にそうなっても全然構わないんだけどさ」 わたしに頭を撫でられるのは満更でもない、って顔をしてごろごろと嬉しそうに目を細めつつ奴は突っ込みを入れた。 「多分大丈夫。なんか、頭が沸騰したあとみたいで。すぐに落ち着いて寝られそうな気がしないの。だからゆっくりクールダウンしながらあんたが完全に眠るのをここで一緒に待ってるよ。起きてる間は一人にしないから。安心して寝入っていいよ」 考えつつ真面目に答えると、哉多は胸から手を放し腕全体を使ってわたしを背後からぎゅっ、と感激した様子で抱きしめた。 「お前って可愛いな、本当。ホル猫にも俺にも平等に優しくしようと頑張ってくれてるし。…よぅし、じゃあお礼に。上手く寝つけるようにもうひと頑張り、疲れさせてあげる。これで身体の芯までぐったり来て、今夜は爆睡間違いなしだよ」 「いやだから。…ここで爆睡したら朝まで起きられないって。余計なことしなくていい、のに。…んんっ、もぉ」 きつく回した腕が緩んだかと思うと、すかさず脚の間に前から差し挟まれてそこを弄られる。もう今日はさすがに終わりだとばっかり思ってたから。警戒を緩め過ぎてた。 奴がわたしの肩に顎を乗せてちろ、と耳を舐めて囁く。 「もうこんなに濡れてんじゃん。さっきまでの余韻かな。…これならまだ受け入れる気満々だね。と思ったけど今日が初めてなんだもんな。さすがに立て続けはね。まだ痛みが残ってたら可哀想かな」 思案するように呟きながらも指の動きは止めない。かき立てるように感じやすいところを責められて、あっという間に蕩けて。…変な気持ちになっちゃう…。 「…んっ、あぁんっ。…もぉ、今日は。終わりで、いいのにぃ…。は、ぁんっ」
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