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結花は一瞬何を言われたのか分からなかった。 冷静に考えてみて、いや、どう考えてもプロポーズの言葉であると思う。 指輪も小さなダイヤモンドが煌めく高価そうな代物だ。
「・・・え、何? どういうこと?」
「え、もしかして、望まれていなかったのかな?」
「だって私たち、昨日別れたんじゃなかったの?」
その言葉に幸人はキョトンとしている。
「別れた? 別れるようなこと、何かあったっけ?」
「だって『もう俺たちの関係はここで終わりにしよう』って・・・」
そこまで言ったところで、木の影に隠れていた浮気相手と思われる女の子が乱入してきた。 いきなりのことですっかり忘れていたが、そのことは解決していなかったのだ。
「そんな言い方したら、駄目に決まっているじゃない! お兄ちゃんッ!」
「・・・え、お兄ちゃん? 幸人、妹いたの?」
結花の頭は混乱していた。 いるのは兄だけで妹はいないという話だったはずだ。 その認識は間違っていなかったようで幸人は首を横に振っている。
「俺には兄貴しかいないって話しただろ? この子は兄貴の娘さんだよ。 プロポーズするって兄貴と話したのを聞いていたらしくて、付いてきちゃってさ」
「え・・・。 あの、姪っ子、っていうこと・・・?」
「あぁ」
「え、何歳なの?」
そう言うと女の子は深くお辞儀した。
「初めまして、美奈(ミナ)です。 今年で10歳になりました!」
「じゅ、じゅ、じゅ、十歳ッ!?」
結花が驚くのも無理はなく、その子はどう見ても未成年のようには見えなかった。 結花と並んで歩いたとしたら、年の近い妹くらいに見えそうだ。
だが言われてみれば幸人の兄にどことなく似ている気がした。
「しっかりしているだろ? まぁ、案外中身は子供だけどな。 ませてはいるけど」
「実際に子供ですから!」
結花は未だに混乱している。
「ということは、え? じゃあ、関係を終わりにしようっていうのは本当に・・・」
「あぁ。 恋人という関係を終わりにしようということな」
「・・・そういうことだったの? 嘘・・・」
結花は悟った。 昨日のあの言葉がプロポーズに繋がるのだと知り涙が溢れた。
「本当。 結婚の話をまともにせずに、急に切り出しちゃったし言い方がマズかったのかもしれない。 俺もテンパっていて、誤解させようという意図はなかったんだ」
溢れる涙を擦りながら首を振る。 幸人は真剣な表情で向き直った。
「それで、結花さんの返事を聞かせてくれる?」
「・・・はい。 もちろんです」
そう言うと幸人は指輪をはめてくれた。 指輪のサイズを教えたことはなかったはずなのに、ぴったりのサイズだった。
「これでもう本当に恋人じゃなくなっちゃったね」
「あぁ。 離せって言っても離さないからな?」
「うん、離さないで。 昨日は本当に驚いた。 振られたと思ってずっと泣いていたから」
「だから目が赤いのか?」
「そう」
そう言うと幸人は申し訳なさそうな顔をする。
「そっか。 ・・・悪いことをしちゃったな。 一応昨日、仮のプロポーズをして結花の様子を見てから、本当のプロポーズをしようと思っていたんだけど」
「でもそれがサプライズだった。 嬉しかった」
そう言って笑うと幸人は再度向き合った。
「結花さん。 これからも愛していると誓います。 一生幸せにするから」
「はい」
そこで楽しそうに眺めていた姪っ子は言った。
「これで結花さんは私のおばちゃんだね!」
「おばッ・・・!?」
何となく複雑な気分だが、涙が出る程嬉しい25歳でおばちゃんになった結花であった。
-END-
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