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episode 9
すごい力。腕がもげそうになる。けれど、振りほどけない。そのまま廊下の先にある階段の踊り場に連れていかれた。
これは悪意だ。そう私が確信に至る話し方で、男は喋り出した。
「本当にマヌケだなあ、勝田 瑠衣。ちょっと遊んでやろうと思って何度か身体借りたけど、それでも全然気付かねえって、どんだけだよ? ほんとボケナス」
なんなのこいつ! ムカつく言い方! ってか、言ってる意味もわかんないんですけどっ。どんだけナスが好きやねん!
廊下の向こう、パタパタと遠くで足音が響いてくる。その残響を耳に入れながらも、私は精一杯、男を睨みつけた。
「なんのことかぜんっぜんわかんないんですけど! それより早く手を離してくれませんか」
なんだかわけがわからないけど、こうも乱暴にされると悔しくて悔しくて。きっと口はへの字に歪んでいるだろうけど、悔しさが口から出そうになってて、これ以上は反抗の言葉が浮かんでこない。
「おまえなあ、毎回買ったもんを返品するって、意味わかんねえけど。せっかく俺が買ってやってんのに、笑えるぞ」
男は唇の端をあげて、薄ら笑いを浮かべた。その言葉で一気に背筋がキンっと凍った。
「な、なんで……」
どうして、それを知っているのだ?
ぶわっと悪寒が走る。
さっきまであった怒りの気持ちはさっと消え、頭の中でアラートが鳴り響く。この男は危険だと。
「なんであんたが……」
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