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校門を出てからも暫くは沈黙が続いた。といっても、普段から加賀は無口だから、静かなのは私なんだけど。
立て続けに心無い言葉を浴びたのと、加賀と一緒に帰ることが出来たのとで情緒が安定しなくて、ただ黙々と加賀の隣を歩いた。
結局加賀がいつからあそこにいたのかも、あの人達の会話を聞いたのかも分からないけれど。いま加賀と手を繋いでいるだけで心が軽くなって、全てがどうでもよく思えた。
周りからどう見られてたって、私達はこうして一緒にいる。
それだけで十分なのだ。
「なぁ」
意外にも先に沈黙を破ったのは加賀の方で「うん?」と横を向けば、私を見下ろす切れ長の瞳と視線がぶつかった。
「何かあったらすぐ言って」
「…え?」
「俺、お前と付き合ってんだし」
すぐに言葉を理解出来なかったけれど、そこでふとあの会話を思い出した。
“ねぇ、加賀君と安達さんって本当に付き合ってんのかな”
やっぱり加賀は聞いていたのだろうか。
やだな。陰口叩かれてる彼女なんて、加賀の隣には似合わないのに。
「…うん、分かった」
もしかしたら加賀なりに心配してくれているのかもしれない。けど私は、これ以上加賀とこの話をしたくなかった。
暗い話題なんて出したくない。一緒にいられる時間を大切にしたい。こうして一緒にいたら全部忘れられるし。
頷く私を見て、加賀がまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど。
「なんかお腹空いてきたね」と笑顔を貼り付けて話を逸らせば、加賀はそれ以上何も言ってはこなかった。
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