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どうやら私を覚えてくれていたらしい松永さんに「お久しぶりです。本日はよろしくお願いいたします」と言うと、笑顔を保ったままの彼は、どうぞお掛けください、と私達をテーブル席に誘導した。 名刺を交換してから加賀と並んで椅子に腰を下ろせば、松永さんは私の正面に座る。その間も松永さんは常に穏やかな笑顔を保っていて、加賀が心配するほど悪い人には見えなかった。 「担当、安達さんに変わるんですよね?」 加賀より先に口を開いたのは松永さんだった。「はい」と返事をした加賀は、やはり表情を変えず「今日から徐々に引き継ぎをしていく予定です」と伝える。 「急に加賀さんから連絡来た時は何かと思いましたよ。もう申告の準備かと思って、まだ何もお渡し出来るものがないからスルーしかけたけど、電話に出て良かった」 ん? さらっと失礼とも取れる言葉を発した松永さんに、思わず眉根を寄せそうになる。けれど、チラッと横目で隣の男の表情を確認すれば、やはりポーカーフェイスを貫いていたから、私も何とか平常心を保った。 「まぁそろそろ申告の準備もして頂かないといけないんですけどね。次の申告は安達に任せるので、そちらに連絡していただければ」 「うん、張り切って用意するよ。だいぶ入力は溜まってるけど、安達さんに迷惑がかからないように今日から少しずつ処理しようかな」 私の目を真っ直ぐ見据えながら、そう言葉を紡いだ松永さんに「よろしくお願いします」と頭を下げる。そうしながらも思い出すのは、車の中での加賀の言葉。 確か加賀は松永さんに、連絡は無視されるし資料もなかなか送ってもらえないと言っていた。でも今は張り切って用意すると言っている。 この人、こうして口だけなのか、それとも私が女だからやる気になっているのか、どっちなのかよく分からない。 目がくりくりとしたくっきり二重の松永さんは、程よく肌が焼けていて、生活感もあまり感じず年齢よりずっと若く見える。 時折見せるあどけない笑顔はこっちを安心させてくれるし、とても雰囲気はいい感じの人なのに。 「本当に担当変えてもらえるなんて思わなかったから嬉しいよ。テンション上がるなぁ」 たまに見せる棘の部分に、少しモヤッとしてしまう。
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