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「今後ともよろしくお願いいたします」 店を出る間際、頭を下げる私に松永さんが「あ、そうだ」と放つから、ゆっくりと頭を上げながら首を傾げれば、くりっとした大きな目と視線がぶつかった。 「今度そっちの方に行く予定があるので、ついでにそちらの事務所に伺ってもいいですか?聞きたいこともたくさんありますし」 「はい、勿論です。お待ちしております」 「ではまた連絡しますね」 ふわりと笑みを浮かべる松永さんは、やっぱり気さくで、嫌味を言うような人には見えなくて。混乱する私に、加賀は小声で「早く車に乗って」と急かしてくる。 「失礼します」ともう一度松永さんに頭を下げてから先に店を出た加賀に続くと、外は雪がちらちらと降っていた。 それに驚き思わず足を止めてしまったけれど、加賀は特に何も反応せず先に車に乗ってしまったから、私も慌てて助手席のドアを開けた。 車に乗り込みながら、こんなにもあっさりとした挨拶で本当に良かったのだろうかと若干戸惑ってしまう。 けれど、これ以上ここにいて加賀がチクチクと攻撃されるのも嫌だった。 確かに松永さんは女好きなのかもしれない。けど、特にセクハラを受けたわけでもないし、今の時点で彼に害があるとは言いきれない。ただ、加賀と松永さんが長時間同じ空間にいるのは危険な気がした。 だからここは早々に切り上げた加賀が正解なのだと思う。 それにしても、こんなにも態度に出す加賀は珍しい。と言っても、他の人にはあまり分からないと思うけど。 私は昔から加賀を見てきたから分かる。ほんとに微かにだけど、加賀はあの時、間違いなく表情を崩した。
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