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「あの、昨日は…」
「ねぇ依茉ちゃん」
「え、あ、はい」
「依茉ちゃんはどんな男がタイプ?合コンしたいって言ってる奴が何人かいるんだけど」
消え入りそうな声で話しかけるもすぐに井上さんに遮られ、隣からは痛い程視線を感じるけれど、慌てて視線を井上さんに移した。
「えっと…」
「ちなみにおススメは消防士の…」
「い、井上さん、気持ちは嬉しいですけど、今はまだ新しい人は考えられないというか…」
ていうか、今この状況をどうにかしないと落ち着かない。加賀の前で合コンの話をする余裕なんて一つもない。
「すみません」と、顔の前で手を合わせてごめんのポーズを取れば、井上さんはすぐに「そっか、そうだよね」と、眉を下げて笑った。
「もーこれだからチャラ男は。6年も付き合った人と別れたのに、すぐ次にいけるわけないでしょ。依茉を井上さんと一緒にしないでくれます?」
「ナナちゃんは今日も辛辣だね。そこがいいけど」
「きっしょ」
「ナナちゃん、せめて笑顔で言って?」
ナナちゃんフォローありがとう、と心の中で呟きながらも、6年付き合った人と別れたのに、次の人にいくどころかもう他の男とヤっちゃったかもしれない自分に、泣きたくなった。
そんな私を余所に、ナナちゃんは「依茉の分のコーヒーも淹れてくるから、席座ってな」と私の肩を軽く叩くと、先にオフィスに入っていく。
すると今度は井上さんがしょんぼりと肩を落としながら「依茉ちゃんごめんね」と一言放つと、ナナちゃんの後に続いて行ってしまった。
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