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「…それは、バレンタインじゃなくてもあげるよ」
いつでもあげる。恥を忍んでぽつぽつと呟けば、奏人は突然むくりと上体を起こすと、覆い被さるように私にキスを落とした。
「何でそんな可愛いの」
「えっ」
「バレンタインまで待てない。明日入籍する?」
耳元で、奏人らしくない言葉がぽろぽろと紡がれて、顔がみるみる熱くなるのを感じた。
どうして奏人は、いとも簡単に私の心臓を揺さぶるのだろう。
結婚しても、奏人の言葉にドキドキし続けるのかな。それともいつかこういう奏人にも慣れてしまうのだろうか。
「起きてた理由はそれだけ?他に悩みはない?」
「…うん」
「なら良かった。依茉がそうやって言葉にしてくれたら、安心する」
ありがとう。そう囁いた奏人は、私の額、頬、耳、首にキスを落としていく。その都度ぴくりと反応する身体は、もうとっくに奏人を求めていた。
…でも。
「ごめんね、疲れてるよね。私も寝るから、一緒に寝よう」
少し寝癖のついた黒髪を撫でれば、奏人は「…ん」と頷き、再び軽く唇を重ねる。
とろんとしている目は、今すぐにでも眠ってしまいそうで。恐らく限界を迎えているだろう彼は、今度は私を前から包み込むと、頭を撫でながら「おやすみ」と放った。
奏人の胸に顔を埋めて「おやすみ」と返事をする。自分の睡眠時間よりも、私を大事にしてくれる彼を、心から愛おしいと思った。
奏人のことだ。きっとプレゼントは何をあげても喜んでくれるだろう。例えチョコが食べられなかったとしても、奏人はきっと優しく目を細めると思う。
考えるのはやめよう。バレンタインは、手作りのお菓子にしよう。
そう心に決めて、瞼を閉じた。安心感からか、あっという間に意識を手放した。
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