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バレンタイン当日。
「奏人、これ」
会社の給湯室。奏人に手作りのトリュフを渡した。
受け取った奏人は「ありがと」と、口角を上げた。
「チョコ、食べられなかったらごめんね」
「いや、食べられるよ」
奏人はそう言うと、さっそくラッピングされた袋からトリュフをひとつ取り出す。それを口に入れて咀嚼すると「うま」と零し、破顔した。
その笑顔を見てほっと胸を撫で下ろした私は、奏人につられて思わず頬が緩んだ。
「こないだは、夜中に起こしてごめんね」
「…え?」
「奏人が欲しいもの…その…嬉しかったよ」
あの日の言葉が、数日頭から離れなかった。奏人がくれた言葉が嬉しすぎて、あれから奏人と結婚したいという気持ちが強まる一方だった。
「あの日も言ったけど、私はいつでもOKだから」
「……」
「これからもよろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げて、逃げるように給湯室を飛び出した。バレンタインだからと浮かれて、大胆なことを言ってしまったと、言ったそばから反省した。
会社で何言ってんだ私。切り替えろ切り替えろ。
そう心の中で呟きながら、自席について思い出すのは、さっきの奏人の、笑った顔。
──チョコ、喜んでくれて良かったな。
「…夜中って、なんの事だろ」
でも実は、奏人はあの時の記憶が全くなくて。
この日奏人は、依茉の“OK”の意味が分からず、ずっと頭を抱えていたのでした。
ハッピーバレンタイン♡
fin.
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