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昨日のことに一切触れてこないどころか、どう見てもいつも通りの加賀に、思わずキョトンとしてしまう。昨夜、甘い台詞を吐いた男と同一人物とは思えない。 てことは、やっぱりあれは夢だったのかな。…うん、そうだ。絶対そうだ。だってあの加賀が私をまだ思ってるわけないし、それに付き合ってる時ですらあまり愛情表現をしなかったのに、夢の中の加賀は別人のようによく喋ってた。 そっか、夢か。それなら良かった。今朝の私の格好も、ただ寝ぼけて脱いだだけだったんだ。やだなぁ恥ずかしい。欲求不満が寝相に出ちゃうなんて、絶対誰にも言えないわ。 でも酔ってたしね。うん、酔ったまま寝ると寝相が悪くなるんだろうね。きっとそう。今度から気を付けよ。 加賀の態度に安堵した私は、ほっと小さく息を吐く。朝からスッキリ出来たし、気持ち切り替えて仕事頑張ろ。 と、安心したのも束の間。急にぴたりと足を止めた加賀が、振り返りながら「なぁ」と声を落とす。 その視線は明らかに私に向いていて、「へ?」と思わず間抜けな声を漏らした私に、加賀は一歩距離を詰めた。 「昨日のこと、ひとつも覚えてねーの?」 私の顔を覗き込むように腰を折った彼から吐き出された言葉は耳を疑いたくなるようなもので、思わず「はい?!」と大きな声を上げた私に、加賀は「昨日の夜のこと、覚えてねぇの?」と、ご丁寧に同じ言葉を繰り返す。 その攻撃は、油断していた私にはあまりにも衝撃が大きく、やっと出た「…昨日のこととは、どのことですか?」という声は、今にも消えそうな程小さかった。
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