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イマイチ仕事に集中し切れない自分に喝を入れようと、頬っぺをペチペチと叩く。その様子を見ていた加賀が、また小さく笑った気がした。 それにまた羞恥を覚え、顔が熱くなる。ていうか、加賀が近くにいたら落ち着かないから、早くそこを退けてほしいんだけど。 「今日無理そうなら明日でもいいけど」 「えっ」 ふいに落とされた言葉に、怪訝な目を向ける。と、やっぱり加賀の口元は、少し緩んでいた。 「そんなんで仕事出来る?」 「で、出来るよ。てか何で笑ってるの?」 「いや、何か今日の安達面白いから」 完全に遊ばれてる。私の反応見て楽しんでる。 それって狡いと思わない?私は昨夜の記憶が曖昧だけど、加賀は全てを知ってる。でもそれを教えてくれないくせに、ひとりで楽しむなんて卑怯だ。 「面白いって…まだ少しお酒が残ってて、ぼーっとしてるだけだもん。てか、からかうためにそこにいるなら早く席に戻ってください」 ふい、と視線を逸らし、再びパソコンの画面と向き合う。気持ちを切り替えて、早速いま加賀から貰った仕事をこなそうとすれば「安達」とまた抑揚のない声が私を呼んだ。 「…何でしょう」 さっきから何なんだこの人は。お願いだからこれ以上私を振り回さないでほしい。どうせまた面白いって、私のこと笑うんでしょ? …とか言って、無視出来ないのが悔しい。 「夕方、俺のクライアントのとこ一緒に行こ」 「…え?」 「さっき先生と話したんだけど、新しい法人が12月決算で、俺が担当することになりそうで」 「そうなの?新しいとこって、結構大きい会社だったよね。加賀凄いじゃん」 「うん、だから俺の個人のクライアントを何件か安達に回すことになったから」 「え?!」 「夕方、そのクライアントに一緒に挨拶行こうと思ったけど、お前そんなんで大丈夫?」 予想外の言葉に驚いた私は、勢いよく振り返る。大きく開いた目で加賀を捉えれば、彼の口角はやっぱり上がっていた。
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