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「あ、もしもしお母さん?」 昼休憩。やはりまだ少しお酒が残っている私は、ナナちゃんからのランチの誘いを断って、誰もいない給湯室で珈琲を淹れていた。そこで徐にポケットからスマホを取り出し、母親に電話を掛ければ、『何か用?』と落ち着いた声が鼓膜を揺らした。 「うん、そんな大した用ではないんだけどね…あの、えっと…彰と、別れた」 父親とのことがあるから、母は基本男性を信用していない。けれど、何だかんだ彰のことは可愛がってくれていた。 男に執着するな、ひとりでも生きていけるような強い女になれ。常々そう言われてはいたけれど、私達のことを応援してくれていたのも知っている。 だからさすがに言い出しにくくて、ぎこちなく言葉を紡ぐ。 けれど母親は『あら、そうなの』と驚いた様子もなく、淡々と返した。 「ごめんね。結婚するかもって、言ってたのに」 『何で謝るの?あんたが浮気して別れたとか?』 「えっ…と、違う。浮気とかじゃなくて、すれ違いの生活してたから、お互い熱が冷めたというか…」 父の浮気で離婚した母に、彰が浮気しましたなんて言えなかった。その時のことを思い出してほしくなかったし、これ以上男性不信になられるのも嫌だったから。 それに、娘が自分と同じ道を辿ってるとも思われたくなかった。 嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えつつも「円満に別れて、未練も何もないから」と続ければ、母は『そう、良かったね』と当たり障りのない言葉を放った。
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