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『まぁ男なんかいなくたって生きていけるんだから』 「うん」 『依茉が楽しくいられたら、それでいいのよ』 「うん」 『彰君が浮気して別れてたら、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったけど。あの子、そんなことするような子じゃなさそうだったもんね』 「…うん」 胸が痛い。私も彰はそんなことするような人じゃないと思っていたから余計に。 浮気をしなさそうな人を選んだつもりだったのに、こんな結果になってしまった。男性不信になった母の気持ちが痛いほど分かる。 でもきっと、彰だけのせいじゃない。私にも至らない点があったからこその結果だと思うから、彰だけを責めることなんて出来ないし、母が文句を言うのも違うと思う。 だから、さっき別れた理由に嘘をついて良かったかなって、ちょっと思った。 『まぁでも落ち込んでないなら良かったわ。さすが私の娘』 「うん、元気だよ。とりあえず報告の電話だったから、休憩時間終わるし切るね。また近いうちに帰るから、その時ゆっくり話そう。仕事忙しいかもしれないけど無理しないでね。じゃあ」 本当はまだまだ休憩時間はあるけれど。一方的にそう告げた私は、スマホを耳元から離して通話終了のボタンをタップした。 壁に背を預け、ふぅ、と小さく息を吐く。母との電話は、何故かいつも神経を使う。昔からずっと気を使っていたからかもしれない。それが身体に染み付いてる。 目の前で父に裏切られボロボロになる母も、私のために朝から晩まで働く母も全部見てきた。そしてそんな中私をここまで育ててくれた彼女に、頭が上がるわけがなくて、いつも彼女の顔色を伺っている。 それに母が未だにがっつり働いているのを知っている。もし自分に何かあった時、金銭面で私に迷惑をかけないためだと言っていたけれど。私はそれが、少し心配だったりもする。だから少しでも自分のことで心配をかけたくなくて、いつも言葉を選んでしまう。
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