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「依茉、早く担当増やしたいって、昨日酔っ払いながら言ってたし」 「待って、嘘でしょ」 「嘘じゃないよ。早く一人前になりたいーって叫びながら、加賀君のビール飲んでた」 「えぇ…恥ずかしい」 額に手の甲を当てて溜息をつく私を見て、ナナちゃんはクスクス笑う。 「加賀君ってなーんにも考えてなさそうな顔して、意外に見てんのよね」 「……」 「まぁ依茉も加賀君に教えて貰う方がやりやすいだろうし、良かったじゃん。なんなら私のクライアントも受け取って欲しいくらいなんだけど、癖の強い社長や経理のおばちゃんが多いのよねー」 ナナちゃんが独り言のように喋っているのを聞きながら、頭の中は加賀のことでいっぱいだった。今はあまり加賀のことを考えたくないのに、こんな話を聞かされたら嫌でも考えてしまう。 今朝、急に引き継ぎするって言うから変だとは思った。新しい会社を加賀が担当するのは本当だと思うし、そこが大きい会社なのも確かで、12月決算てことは、繁忙期に申告しなくちゃいけないから加賀が忙しくなるのも間違いではないのだけれど。もし本当に、私のことを思って引き継ぎをしてくれるのなら…。 どうしよう。加賀には昨日からずっとお世話になりっぱなしだ。夢の中で甘い言葉まで吐かれて、現実でも優しくされたら、また心臓がドキドキしてくる。せっかく落ち着きを取り戻しつつあったのに、また思考が停止する。 加賀ってこんなにも自分から動く人だったっけ。あの気怠い空気のせいで、調子が狂うよ。
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