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結局さっきの質問は何だったのか。謎を残したまま静かに車は走り続ける。
暫く無言の時間は続き、ようやく車が停車したから窓から外を確認すれば、目の前にエステサロンの小さな看板が見えて、目的地に到着したことが分かった。
急いでメモ帳をバッグに入れ、シートベルトを外す。けれど、何故か加賀はじっと座ったまま車から降りようとしない。思わず「降りないの?」と小首を傾げれば、加賀の視線が此方に移った。
「別れて良かったな」
「…え?」
「その男より、もっと安達に合ったやつがいると思う」
あ、さっきの話は終わってなかったんだ。ていうか、振られた女に掛けるありきたりな言葉を、加賀でも言ったりするんだ。
なんて感心する一方で、なんだか少し、胸がもやっとした。せっかく励ましてくれているのに、素直に喜ぶことが出来なかった。
だって、昨夜加賀が私に掛けた言葉は全部嘘だったんだよって遠回しに言われてる気がした。私の記憶では、加賀が私にまだ未練があるような発言をしていたけれど、それは気のせいだよって、お前には他にいい人がいるよって、突き放されているような気がした。
いや、実際そうなんだろうけど。でも、なんだろう。胸がチクッと痛むから、心のどこかで勝手に期待していたのかもしれない。
別に今でも私のことを思っていてほしかったわけじゃないけれど、振られたショックからか、誰かに必要とされたかったのかもしれない。
そんな自分が、とてつもなく恥ずかしく感じた。
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