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「お待たせ、ナナちゃん依茉ちゃん」 私達のいるテーブルに近付いてきた井上さんは、「隣いい?」とナナちゃんに声を掛けながら腰を下ろす。その後ろから井上さんに続いてやって来た加賀は、何も言葉を発さず会釈だけすると、私の隣に腰掛けた。 「お疲れ様です。無事に終わったんですか?」 若干顔に疲れが見える井上さんにドリンクメニューを渡しながら尋ねれば、彼は「うん、加賀に手伝ってもらったからすぐ終わったよ」と目を細める。 「その代わり今日は井上さんの奢りっすよ」 すると透かさず言葉を紡いだ隣の男は、メニュー表を見ることなく「俺は生で」と続けた。 アッシュブラックのパーマがかった無造作ヘア。そこから覗く白くて陶器のような綺麗な肌には、高い鼻と切れ長の目。口の下にある小さなホクロが色気を爆発させ、誰が見ても整った顔をしているのに、常に無表情で相変わらず何を考えているか分からないこの加賀という男は、私の同僚であり、私の初恋の人であり、過去に私をボロボロにした、元彼でもある人。 「え、俺奢るなんて言ったっけ」 「じゃあ帰ります」 「うそうそ。加賀のお陰ですぐ終わったから、今日は奢るよ。勿論ナナちゃん依茉ちゃんの分も」 井上さんの言葉に「ありがとうございます!」と拍手をするナナちゃん。そんな皆のやり取りを眺めながら、井上さんと加賀の分のサラダを取り分けると、ドリンクを注文するため店員を呼んだ。 「依茉、こんな日(・・・・)くらいせかせかせずにゆっくり飲みなさいよ」 「ん?こんな日?」 ナナちゃんの言葉に瞬時に反応した井上さんは、私を見据えながら小首を傾げる。 「この子、昨日彼氏に振られたらしいですよ」 「え?!」 ナナちゃんが何の躊躇もなくそう放つと、井上さんは大袈裟な程驚いた顔を見せた。
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