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8.堂道、フォーエバー!
会社のほど近く、オフィス街のこんなところにあったのかと思う場所に、一軒だけ存在していた。
確かに、いかにもな外装ではないし、装飾も抑えられてはいるが、看板には「REST」と「STAY」の値段が書いてあるし、意外にも部屋は半分以上埋まっていた。
ラブホテルならではの、部屋選びから事前精算まで、堂道は戸惑いも躊躇いもなく済ませた。
動作のたびにガコガコ鳴るようなエレベーターに乗り込む。定員二名かと思うくらい狭い。
糸の手前に立つ堂道は、薄暗い、さっきまでいたオフィスと同じ無機質な色の照明に頭のてっぺんを照らされながら上昇する階数ランプを見上げている。
たった三つ階を上がるだけなのに、時間がかかる。
繋いでいた糸の手の甲を、堂道の指が早いリズムで叩き、苛立つ様子が伝わってくる。
「……ラブホのシステムって、何十年前とはいろいろ勝手が違うと思うんですけど、今、次長はわりと手慣れてましたね」
「悪ィが、何十年は空いてない」
「……前に来たのはいつですか」
「それ聞きたいか」
堂道は、糸がムッとしたのを気配で察知したのか振り返って、
「その最新システムに、これまたお前がまごつくことなくチェックインできたら、それはそれで俺がムカつく。俺はお前の元カレを知ってるしな」
がこんと揺れて、停まる。
「お互い様。なかよく引き分けだ」
エレベーターは、ドアの開閉だけは音もなくスムーズだった。
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