7.堂道、最終章!

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*  堂道が荷物を取ってくると言ったので、その間に糸は化粧室に向かって、口紅を取った。  鏡に、さっき突然に輝き始めた自分の薬指が映っている。  しげしげと眺めているうちに、だんだんと涙が滲んできた。  慌てて目尻をぬぐう。  全くロマンチックじゃないプロポーズのシチュエーションに、泣いてやるなんてばからしい。そう思いながら。  二人で、社屋ビルを出る。  さっき資料室であった堂道裁きなど知られる由もなく、普段どおりに夜の街には仕事帰りの人々が行き交っている。 「しかし、わからんもんかね。いくら羽切がゴツくねえっつっても、女とは骨とか肉とか全然違うだろ。胸、わっしゃわっしゃ揉んでたけどよー。んなもん、全然違うのに」 「本物、揉んでみます?」  堂道が返事をしないで、糸を見下ろした。  そのまま数歩、黙ったまま、見つめあったままで歩き、 「じゃあ、行くぞ」 「どこにですか?」 「その辺の。もう、どこでもいいだろ」 「……ついに場末のラブホかぁ。釣られた魚にもはや文句は言えまい」  プロポーズのその日に、と思わないでもない。  しかし、 「文句あんのか。今は質よりスピード勝負だ」  とうとう、堂道は糸の手を取った。 「いますぐ抱きたいんだよ」  憎らしいのは口だけだ。  ロマンチックでなくても、感動的でなくても、王子様みたいではなくても。  堂道が堂道であるだけでそれだけで、糸はもう十分だ。
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