8.堂道、フォーエバー!

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 部屋は煙草の臭いの染みついたごく普通の部屋だった。  近頃はSNSで見かけるオシャレで話題性のある部屋も多い。もっともそんなものを希望も期待もしていなかったし、そもそもがそういう立地にあるホテルではない。  おそらく、ある一定の年齢以上の男女が情事だけを目的として利用する感じの。  雰囲気からして、今日はドアが閉まるのすら待てずにすぐ始まるパターンかと思ったらそうではなく、靴を脱いで、鞄を置いて、上着をかけて、堂道は時計を外し、糸は手を洗う。 「おい、糸」 「はい!」  少し強い声で呼ばれて、その声に身体にわずかに緊張が走る。  昔々、まだ嫌いな上司であった頃の嫌悪感を思い出して、少しおもしろかった。こんな場所に二人でいるというのに。  大きなベッドのある部屋に戻ると、怖い顔で堂道がソファに座っている。 「お前、その服の下。それは大問題だ」 「あー……これは、なかなか確かにエロいですね……」  自分の上半身を見下ろした。 「何色だよ? 紫? 俺だって、そんなの見たことねーだろ! サービスしすぎだ、バカ!」  色だけでなく、押し付けるとブラジャーのレースの模様まで透けて見えてしまいそうなシフォン素材のシャツだ。  こんな下着は普段付けない。どうして持っていたのかも覚えていないくらい昔に買ったもので、確かに、堂道と付き合うようになってから、清楚な色とデザインのものを好んでつけている。 「え、こういう色とか、お好きですか」 「……まあ、嫌いではない」
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