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「誠に! 申し訳ございません!」
堂道は、直角に折れて頭を下げた。
土下座せんばかりの勢いだが、さすがに借り物のタキシードで地べたに這いつくばるのは頂けないと思っているらしい。
「まぁまぁまぁまぁ、よかったじゃないの! 夏至くん、トシなんだし、一分一秒でも早いほうが、ねぇ!」
留袖姿の糸の母、カイ子は堂道に顔を上げさせ、背中をバシバシと叩く。
言葉にも行動にももはや遠慮がない。
「欲しいと思ってもすぐ授かるものでもございませんからねぇ。夏至くんも糸も健康でありがたいことです。よかったじゃないですか」
「もう、アホなんですわ、この子ったら。いいトシして、こらえ性のない」
眉をひそめてそう言うのは堂道の母で、同じく留袖を着ているにもかかわらず、派手な色のキャンバストートを持っている。布素材とは言え、それはとても高級そうに見えるし、実際高価なブランドのものなのだが、いかんせん今日の装いが装いでフォーマルなのだから、コーディネートとしておかしなことには変わりない。
一応、和装用のハンドバッグも提げてはいるが、さっきから何かを取り出すのはその派手はトートバッグからで、おそらく荷物がたくさん入るという理由だけで選んだのだろう。
相変わらずいつどんなときもマイワールドで生きている人だ。
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